詐欺の構造と被害者支援【第2期】

INVDOM Pty Ltdはその後どうなった?ASICの95社清算事件と連邦裁判所判決

2024年、私はSNSをきっかけとした投資詐欺の被害に遭いました。

SNS広告から投資の話に入り、LINEの投資グループへ誘導され、そこで勧められた取引を続ける中で利用することになったのが、「INVDOM」という投資取引サービスでした。

当時の画面には暗号資産やFXなどを取引できるような仕組みがあり、私は実際にINVDOM名義のメールを受け取り、取引口座を作成しました。

しかも、単にサイトへログインできただけではありません。

ログインIDが発行され、本人確認書類を提出し、その書類が「Approved(承認)」されたというメールまで届いていました。

2024年当時の私には、こうした一つ一つの手続きが、「正式な取引サービスを利用している証拠」のように見えていました。

しかし被害から時間が経ったあともINVDOMについて調べ続けていた私は、オーストラリアの公的資料の中で、もう一度「Invdom Pty Ltd」という会社名を見ることになります。

オーストラリアの規制当局ASICが連邦裁判所に清算を申し立てた95社の中に、Invdom Pty Ltd(ACN 675 681 268)が含まれていたのです。

さらに連邦裁判所の判決を確認すると、INVDOMの登記上の取締役とされていた人物について、私が2024年当時には知ることのできなかった事実も記録されていました。

では、私が利用していたINVDOMとは、いったい何だったのでしょうか。

この記事では、2024年当時に私が実際に受け取ったINVDOMのメールと、ASICの公式発表、オーストラリア連邦裁判所の判決を時系列で照合します。

この記事について

この記事は、私自身の投資詐欺被害の記録と、公的機関・裁判所が公開している資料を照合した検証記事です。

この記事の内容

2024年3月26日、私はINVDOMの取引口座を作った

まず、私自身が当時受け取った記録から振り返ります。

2024年3月26日、INVDOM名義で「取引口座作成完了のお知らせ」が届きました。

メールにはアカウント登録完了の案内とともに、ログインID、登録パスワード、取引パスワードなどが記載されていました。

2024年3月26日にINVDOMから届いた取引口座作成完了メール。アカウント登録完了とログイン情報が記載されていた当時の記録
2024年3月26日に実際に受信したINVDOMの「取引口座作成完了のお知らせ」。個人情報・認証情報は公開時にマスキングしています。

同日、「INVDOMアカウントへようこそ」というメールも受信しています。

2024年3月26日に届いたINVDOMアカウント登録完了メール。当時利用していたサービスから届いた記録
同日に受信したINVDOMアカウント登録完了メール。

会社名があり、取引口座が作られ、ログイン情報まで発行される。

今振り返ると、こうした「本物らしく見える小さな材料」が積み重なっていたことが、当時の判断に大きく影響していました。

本人確認書類まで提出し、「承認」されていた

口座作成だけではありません。

私はINVDOMへ本人確認のための書類も提出していました。

2024年3月26日には、「アップロードされたドキュメントを確認するリクエストが受信されました」というメールが届いています。

INVDOMから届いた本人確認書類の確認リクエスト受付メール。提出書類を確認すると案内されていた当時の記録
本人確認用としてアップロードした書類について、確認リクエストを受領したとするメール。

さらにその後、件名「Document Approved」のメールが届きました。

本文には、本人確認のためにアップロードした書類が承認された旨が記載されていました。

INVDOMから届いたDocument Approvedメール。本人確認のために提出した書類が承認されたと通知された記録
「Document Approved」と記されたINVDOMからのメール。

本人確認をされた=安全、ではありません。

本人確認らしい手続きや承認メールが存在することと、その投資サービスの適法性・安全性が確認できていることは別の問題です。

ASICとは?この記事で重要になるオーストラリアの規制当局

ASICとは、Australian Securities and Investments Commission(オーストラリア証券投資委員会)の略称です。

オーストラリアの企業、金融市場、金融サービスなどを監督する公的な規制当局です。

今回の記事でASICが重要なのは、私が利用していたINVDOMと同名のInvdom Pty Ltdが、その後ASICが連邦裁判所へ清算を申し立てた95社の中に含まれていたからです。

2年後、公的資料の「53番」でINVDOMを見つけた

ASICは2025年4月7日、95社について連邦裁判所から清算命令を得たことを公表しました。

ASICは、この95社の多くについて、オンライン投資詐欺や「romance baiting」と呼ばれる手口との関連が疑われると説明しています。

そして、ASICが公表した95社の一覧を見ると、53番にInvdom Pty Ltd(ACN 675 681 268)があります。

ASIC公式資料


ASIC公式発表:95社の清算事件を確認する

公開された一覧の53番に「Invdom Pty Ltd (ACN 675 681 268)」が掲載されています。

漫画で確認|ASICから連邦裁判所の清算命令まで

海外の規制当局が調査し、裁判所の清算命令へつながる仕組みは、文章だけでは少し分かりにくいかもしれません。

そこで今回の事件を理解しやすくするため、ASICと連邦裁判所の役割を前半・後半の漫画に整理しました。

以下は、今回の事件と公的資料を理解しやすくするために流れを簡略化した解説図ですが

すべてのASIC案件が同じ順序・手続で進むことを示すものではありません。

ASICによる情報収集や調査からオーストラリア連邦裁判所への申立てまでを分かりやすく整理した解説漫画前半
1/2:ASICによる情報収集・調査から裁判所への申立てまでを簡略化した解説。
オーストラリア連邦裁判所による審理と清算命令、その後の流れを分かりやすく整理した解説漫画後半
2/2:連邦裁判所による審理、清算命令とその後を簡略化した解説。

裁判所は95社について何を問題視したのか

連邦裁判所の判決を見ると、単に「怪しい会社が95社あった」というだけではありません。

判決では、95社の管理・運営状況について複数の重大な問題が検討されています。

95社全体について判決で示された主な状況

・95社のうち92社が、仮清算人から会社の帳簿・記録などを求められても応答しなかった

・多数の会社で、登録上の住所や会社運営の実態に問題が確認された

・多数の会社について、実質的な資産がほとんど確認できなかった

・取締役として登録された人物が、就任への同意を否定したケースも複数確認された

Stewart裁判官は、各社を「公正かつ衡平」の理由で清算する根拠について、“overwhelming”と表現しました。

また判決は、95社が金融詐欺活動に利用されていることを示すstrong circumstantial evidence(強い状況証拠)があるとして、公衆を保護する必要性にも言及しています。

ここは法的に区別する必要があります。

この判決は、「INVDOMが刑事裁判で詐欺罪の有罪判決を受けた」というものではありません。

ASICの申立てを受け、オーストラリア連邦裁判所が会社法上の理由から95社の清算を命じた事件です。

INVDOM個別の記録|Form 201は2024年3月11日付

では、INVDOM個別について裁判資料には何が残されているのでしょうか。

判決資料には、Invdom Pty Ltdについて次の記録があります。

裁判資料で確認できるINVDOMの記録

会社名:Invdom Pty Ltd

ACN:675 681 268

取締役として記録された人物:Michaela Kym Wagner

書類:Form 201「Application for Registration as an Australian company」

Document ID:6EZW67956

Lodgement Date:2024年3月11日

そして、私にINVDOMの口座開設メールが届いたのは、その15日後の2024年3月26日でした。

当時は見えなかった「時間のつながり」

当時のメールと、その後に公開された公的資料を同じ時間軸に置くと、2024年には見えていなかったものが見えてきます。

2024年3月11日
Invdom Pty LtdのForm 201に関する記録
2024年3月25日
当時取得していたASICデータベースのAFS Representative資料では「Commenced 25/03/2024」と表示
2024年3月26日
私にINVDOMの口座開設メールが届く
同日
本人確認書類の受付・承認メールを受信
その後
INVDOM上で暗号資産・FXなどの取引画面を利用
2025年
ASICの申立てを受け、連邦裁判所が95社について清算命令

当時、Invdom Pty Ltdを調べたとき
会社情報があり、本人確認があり、さらに公的データベースから取得したように見える資料までありましたが、

本物の情報が一部に含まれていることと、目の前の投資サービス全体が安全であることは同じではない。

今回の追跡で、私はこの違いを改めて考えることになりました。

登記上の取締役本人は、INVDOMへの就任に同意していなかった

そしてINVDOM個別について、さらに重要な記録がありました。

オーストラリア連邦裁判所はMichaela Kym Wagner氏について、Invdom Pty Ltdの取締役として行動することに同意しておらず、取締役として任命されていなかったとする内容を判決に記録しています。

その取締役就任については、判決上“void and of no effect”とされています。

日本語でいえば、無効であり法的効力がない、という趣旨です。

今回確認した公開判決から言えるのは、Wagner氏がINVDOMの取締役就任に同意しておらず、その就任が有効なものではないと裁判所が扱ったことです。

一方、INVDOM個別について
「誰かがWagner氏の署名を偽造した」
「Wagner氏の身分証明書が盗まれた」と、
この判決だけを根拠に断定することはしませんが、

ASICは95社事件全体について、一部の会社では盗まれた個人情報が会社設立に利用された疑いがあると説明しています。

ASICが警告した「hydra-like scammers」とは

ASICは、この95社事件を発表する際に詐欺を“hydra-like”と表現しました。

ヒュドラは、ギリシャ神話に登場する多頭の怪物です。

ASICが警告しているのは、一つのサイトや会社を閉鎖しても、別の会社名、別のウェブサイト、別のアプリなどを使った詐欺が再び現れるという問題です。

つまり、「この会社名が警告リストにないから大丈夫」だけでは判断できないということです。

上級編|海外投資サイトを見抜く専門チェックリスト

ここからは、この事件から一歩進めて、
今まさに海外投資サイトを調べている人が使えるチェックリストです。

一般的な「怪しい日本語に注意」「高すぎる利益に注意」より、あえて専門的な項目まで入れています。

使い方

確認できた項目だけ☑してください。「たぶん大丈夫」はチェックしません。

難しくて確認できない項目があること自体が、一度送金を止めるきっかけになります。

LEVEL 1|会社そのものの存在を確認する







LEVEL 2|会社登録と金融サービスの許認可を分ける








LEVEL 3|会社とウェブサイトは本当につながっているか








LEVEL 4|規制当局の警告情報から逆引きする








ASIC Investment scam alerts


ASICの投資詐欺警告を確認する

LEVEL 5|自分のお金は実際にどこへ行ったのか








LEVEL 6|「出金できる」を実際に確認したか








LEVEL 7|最難関:「本物の情報を悪用した偽物」を疑えるか










チェックできない項目があるなら、それが「止まる理由」になる

このチェックリストには、点数を付けません。

「70点だから安全」「90点だから大丈夫」という判断に使ってほしくないからです。

1つでも「分からない」がある
確認できるまで、追加送金を急がないでください。

複数の重要項目が確認できない
相手から提供された資料だけで判断せず、公的機関・規制当局など独立した情報源から確認してください。

「難しくて調べ方が分からない」
それも重要なサインです。大きなお金を預ける相手について、自分で確認できない状態のまま送金する必要はありません。

2024年の私なら、どこまで確認できていただろう

いま振り返ると、私は「何も確認していなかった」わけではありません。

ただし、確認していたものと、本当に確認する必要があったものには大きな差がありました。

会社名が存在する:○
口座開設メールが届いた:○
本人確認承認メールが届いた:○
金融サービスを提供できる権限・範囲を自分で確認:?
サイトと法人・登録情報との実際の関係:?
登記上の人物と実際の会社運営との関係:確認できていなかった
送金した資金が市場へ流れたことの独立確認:できていなかった
FX・暗号資産の約定を外部データと照合:できていなかった
グループ参加者の出金報告を独立した証拠で確認:できていなかった

「本物らしい情報がいくつもあった」ことと、「安全だった」ことは別でした。

今まさにSNS投資・暗号資産・FXの中にいる人へ

もし今、SNS広告からLINE、WhatsApp、Telegramなどへ誘導され、「先生」「アシスタント」「投資グループ」から株、暗号資産、FXなどの取引を勧められているなら、一度だけ立ち止まってください。

特に、画面上では大きな利益が出ているのに出金できず、さらに税金、保証金、解除料、認証料、追加資金などを要求されている場合は、相手の説明だけを根拠に急いで送金しないでください。

会社番号がある。

本人確認をされた。

サイトがきれい。

規制当局らしい資料がある。

画面に利益が表示されている。

一つ一つは本物らしく見えても、それだけで投資サービス全体の安全性を証明することはできません。

このINVDOM記事を書いた理由

私は、誰かを感情だけで断罪するためにこの記事を書いたのではありません。

2024年に自分が見ていたものと、その後に公的機関や裁判所が公開した資料を並べ、「あのとき何が見えていて、何が見えていなかったのか」を確かめたかったからです。

2024年3月26日、私はINVDOMの口座開設メールを受け取りました。

そしてその後、オーストラリア連邦裁判所の判決資料の中で、同じInvdom Pty Ltdという名前を読みました。

そこには、当時の私には知ることのできなかった記録が残されていました。

過去は変えられません。

でも、この記録を残すことで、これから送金しようとしている誰かが、検索して、一度立ち止まることはできるかもしれません。

私は止まれませんでした。だから、あなたには止まってほしい。

次回|「会社番号が本物」なら信用していいのか?

今回のINVDOM追跡で、もう一つ大きな疑問が残りました。

会社番号が実在し、規制当局のデータベースにも情報が見つかった場合、私たちはどこまで確認すればいいのでしょうか。

次回は、海外投資サイトについて、

・会社そのものの確認
・金融サービスの許認可の確認
・会社とウェブサイトの関係
・規制当局の警告情報

という順番で、初心者でも実際に調べられる方法を整理します。

「会社が存在する」と「その投資サイトが安全」は、なぜ同じではないのか。

INVDOMの経験を、次の被害を止めるための確認方法へつなげていきます。

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English Summary

Invdom Pty Ltd (ACN 675 681 268) was among 95 companies ordered to be wound up by the Federal Court of Australia following ASIC’s application.

This article compares my 2024 INVDOM records with ASIC publications and the Federal Court judgment to examine what was visible at the time and what became clear only later.

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